Minakami Room

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fhána『Zero』のこと

だいぶ前、fhánaのアルバムについて書いた。

mistclast.hatenablog.com

特にアルバム『Cipher』の実質的エンディングである『Zero』について。

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当時、なんとなく分かった感を出して書いていた。
だが、今になって……

全面的に撤回したい。
この曲、語りきれないわ。
ここのところずっとこの曲を聴いている。
聴けば聴くほど、当時の自分は何かを聴き逃していたのではないかと言う気分になる。
あるいは未だに……。

以前、筆者は『Zero』について「直前に収録されている『僕を見つけて』や『Ethos』ほど壮大な曲ではない」と書いた。

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『Ethos』はイントロから明らかに壮大だし、内容のスケール、描き出そうとしているもの、全てにおいて素晴らしい一曲だ。
fhánaの代表曲と言って差し支えないと思う。

それと比較してしまうと『Zero』はまだ(少なくともイントロ段階では)軽快な曲に聴こえる。
当時はその前向きにも聴こえる曲調にただただパワーを覚えていた。

でも今思うと、それはボーカルのtowanaのマジックにやられていたのだと思う。
もちろん『Zero』がパワフルな希望を秘めた曲であることであることには間違いない。

だが、それ故に見失っていた。
希望の裏に秘められていた絶望というか、重さに。
以前上記の『Cipher』に関する記事を書いてから、『Zero』という曲を何度も何度も聴いた。
何かしら自分の中で消化しきれないものがあったのだと思う。
そして思い始めていた。
この曲、ちょっと僕が思っているよりも遥かにとんでもない曲なんじゃないか、と。

そしてようやくこの曲に込められた思いをググった。
今更の極みである。

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佐藤
元々は、今回のアルバムは重い曲が多いので、箸休め的なチルい曲を作ろうかなと思っていたんですね。でも、戦争という状況になって、それが自分にはすごくショッキングで。僕たちだってグローバリゼーションの流れの中にあったからこそ、頻繁に海外でライブをできたわけですけど、そういったここ数十年積み上げてきたものがリセットされた、世界は本当に変わってしまったんだなと感じて。それで出来たのがこの曲だったんです。

正直、頭を抱えた。
このアルバムに含まれた曲がそれぞれ「時代を切り取った」曲だったことは理解していたつもりだった。
ただ、エンディングとしての力強さだけに着目してしまい、この曲が割と直球気味に戦争を扱った曲であることに正直気付かなかった。
確かに「fhánaの再スタート」とだけ解するには、あまりにも重々しく暗いフレーズが続く。
それは再スタートを黙示録のように表現したものだとばかり思っていて、具体的で切実なある種の実像を描いたものだとは思わなかった、というのが正直なところだ。
多分、実像として受け止めるには僕としても重すぎたのだと思う。
そしてこの曲には「聴き手が重く受け止めすぎないような」仕掛けが各所に含まれているように思える。

あーー……
恥じ入るばかり、である。

それを知った上で

けれど一方で、この曲はただそういった「戦争を扱った曲」だから凄い、とかそういう単純な話じゃなく……
……いや、むしろもっと単純に……
リスタートを表現する曲として本当に重厚で、そして純粋に良い曲だと思う。
そしてやっぱり、筆者はこの曲からは強い希望を感じるのだ。

色々仕掛けられているように感じるが、最も大きいのはやっぱりボーカル: towanaのマジックなのかもしれない。

towana
うーん……気持ち的に結構きつかったですね。歌詞はこれでもマイルドにしてくれたという話なんですけど、やっぱり歌詞から情景が思い浮かぶというか。字は違いますけど“線上”という言葉も出てくるし、想像してしまって心が痛いんですよね。私の気持ち的にはきついんですけど、「切実に歌ってほしい」というディレクションもあったので、それも結構辛くて。ただ、こんな話をしておいてなんですけど、曲自体はシンプルにかっこいいので、気楽に聴いて楽しんでくれたらいいなと思います。

towanaもこう言ってくれてることだし、気楽に聴くで良いのだと思う。

ただ、気楽に聴きつつも筆者の中ではもう「人生のフルコース」に選びたいレベルの曲になってきている。*1
もっとシンプルに言えば、「好き」とかそういうのを通り越して、なんというか自分の人生やら生き様やら、そういうものを気付いたら投影してしまっている、そんな一曲だということだ。
そんな曲が誰しも1曲、2曲はあるものだろう。

ちなみに他の曲は吉井和哉の『HEARTS』とフラワーカンパニーズの『深夜高速』である。


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全部旅の曲だね。
我ながら分かりやすい。

ちなみに8月に発売されたfhánaのベストアルバムである『There Is The Light』に『Zero』は含まれていない。
多分、あくまでも『Cipher』のエンディングテーマだったから入れなかったのだろうと推測している。


お読み頂きありがとうございました。
ではまた。

*1:『トリコ』知らない人、ごめんなさい。