Minakami Room

旅を続ける。考える。自由である。生きている。

『妹さえいればいい。』が僕らの心を締め付ける

こんにちは、Mistirです。

……今期アニメ、群雄割拠だ。
強い。強すぎる。

まず、人気アニメの2期がことごとく固まってる。

umaru-ani.me

www.hozukino-reitetsu.com

osomatsusan.com

全部面白い。

雰囲気の良いアニメも充実。

girls-last-tour.com

www.kinonotabi-anime.com

mahoyome.jp


気楽に見られるしょうもないアニメもあれば……

majimesugiru-anime.jp

萌え成分も充実してて

blend-s.jp

ラブコメの波動も足りている。

TVアニメ「ネト充のススメ」公式サイト


……どうしよう、全部面白い……
特に『ブレンド・S』は依存性があって、一話あたり7回くらい観てる。
最早病気の類だと思う。

……だが、「最も語りたいアニメ」は『ブレンド・S』じゃない。

原作は、良くも悪くも一時代を築き上げ、「炎上」さえも巻き起こした名作にして迷作、『僕は友達が少ない』の平坂読。
そう。

imotosae.com


『妹さえいればいい』だ。

6話まで継続して観られた方ならもうお分かりだろう。
「……このアニメ、きっついな」と。
だが、その「キツさ」は第一話冒頭2分の伝説のシーンに感じる辛さとは、全く別の「キツさ」のハズだ。

第一話冒頭2分で切った方もいるだろう。
至極当然だ。あのシーンは「視聴者の選別」以外の何でも無いのだから。

語ろう。
語らせてくれ。
僕「ら」の心を締め付ける、このアニメのことを。

 

 それ「さえ」あれば良かった

www.nicovideo.jp

まだ観ていない方は第一話を観て頂き、その後可能ならAmazonプライム辺りに入会して、続きを観て頂きたい。

第一話冒頭2分はとにかくやっべえが、当ブログ"MistiRoom"の読者の方であれば「ああ、これ高度なボケだな」と気付くはずだ。
※お前のブログなんか読んどらんわとか言わないで泣いちゃうから

それにしても2分ツッコミ無いのは結構キツイが、まあ耐えてくれ。

一話の段階だと、このアニメが「どんなアニメ」なのかよくわからないんだけど……
結論を言えばジャンルは「群像劇」で、そして。

「得たいものが得られない世界で、僕らはどうやって前に進めばいいのか」
という物語でもある。

第一話だとそんな物語だと微塵も分からない作りになっているので、勘違いしても仕方ない。
というか、「そんな物語だ」と分からず、同じ流行ライトノベル出身の『エロマンガ先生』と同じような作品だと思って観ると「ドラマがなさすぎてつまらない」と思われても仕方ない作品ではある。

テクスト分析(作品の内側以外に目を向けない分析方法)の基本からはズレるんだけど……
少し前に放送された『エロマンガ先生』と比較すると本当に面白い。

eromanga-sensei.com


『エロマンガ先生』は「妹」が主軸、もっと言えばメインヒロインの物語だし、「ライトノベル作家」が主人公の、一種メタ的な物語でもある。
そして大ヒット作を過去に生み出した作者による作品、という点でも共通している。
語るまでもないかもしれないが、
『エロマンガ先生』
は、大ヒット作……というか、一時期のラノベ界を築いた作品と言っても過言ではない『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の作者でもある。

これだけ共通点が多い『エロマンガ先生』と『妹さえいればいい。』、何が違うの?

どちらも観られた方ならお気付きだろう。
そして、観られていない方なら絶対に気付かない。
簡単な話だ。

『妹さえいればいい。』は、「妹モノ」ではない。

この作品で「妹」はあくまでも「決して得られないもの」の象徴であって、それが作品のメインテーマでもある。

主要登場人物4人が4人全員、得られないもの、あるいは酷くこじらせたコンプレックスを抱えている。
しかも、残酷なことにそれは他の誰かがあっさりと得ているものであったりする。

先程も述べたように、この作品はそれらと向き合って生きていくことそのものを描いてる。

登場人物は大学生と社会人で、確定申告の話が出てきたり、『エロマンガ先生』と比較すると明らかに「上の世代」がターゲットになってる。
……キャラクターは滅茶苦茶可愛いけれど、どっちかというと……
「重くなりすぎないように」ブレーキとして「可愛さ」が機能しているようにさえ見える。

で、「上の世代」って具体的に何なのかというと……
僕。あるいは、僕「ら」。

歳を経て、社会人になっても、「とりあえずは」オタクであり続けてしまった者たち。
ある程度自分のことが分かって、……「得られないもの」に気付いてしまった者たち。

具体的に作品を見ていこう。

こじらせた関係性と、噛み合った構造と

ここからは第6話のネタバレが含まれるので、可能な限り観た後で読んで下さい。
っていうか見てない人、罪だと思います。
観るべきです。観るべきなんです!!!!

落ち着きます。

まぁ、ネタバレ後に観てもあまり大きな問題じゃないので、兎にも角にも観てください。

さて、語ります。

imotosae.com


この作品の主要登場人物4人は、もう6話まで観られた方ならよく理解できていると思いますが……

主人公、伊月が得られないモノは「妹」
だけどそれは一種のフェイクにも見えて、実はメインヒロイン那由多の才能にもコンプレックスを抱えているように見えるし、春斗が持つ「作品の人気」にも少しコンプレックスがあるように見える。前者は確実にあるが、後者はコンプレックスってほどでも無いようにも見える。ここらは少なくともまだアニメでは詳しく語られていない。

メインヒロイン(??)、那由多が得られないモノは「主人公」
露悪的過ぎて見てて辛いくらいのアピールが特徴的なこのキャラ。視聴者に対するサービスというより、ひたすら露骨にすることで、……むしろ視聴者に一歩「引かせて」いるようにさえ見える。
……主人公を見る時よりもどうしても「メタ的」になっちゃうんだけど、この辺りは前作『僕は友達が少ない』のハーレム的構造がかなりきつめに批判されたことに対する、一種のアンチテーゼとして生まれたヒロインにも見えてしまう。
徹底的に可愛いヒロイン、そして主人公を好き(というより信仰している)理由も明確、そして主人公が明確にヒロインをフる理由も(直接的には語られていないものの)明確。
このあたりがグダグダになってしまった前作『僕は友達が少ない』は散々批判されていた。
まぁこのヒロインを語る時にメタ的になっちゃうのは、やっぱりこのヒロインが主要登場人物のうち「アニメ的な部分」を一身に引き受けているからなのだけれど。

これは既に指摘されているが、この作品はかなり「実写的な」作品でもある。
実写として絶対に表現できない要素として存在するのが、主要登場人物では唯一、このメインヒロインでもある。
ある意味このヒロインこそがこのアニメをアニメとして成立させているとも言える。
まあ今のところは存在感の薄い主人公の義弟(ホントに義弟かなぁ??)、千尋君もアニメ的な存在ではあるのだけれど。

さて、3人目。
サブヒロイン(なのか???)、京が得られないものは……
自分自身、アイデンティティ、言い方は色々あるだろうけれど、とにかくそういったもの。
……ある意味、登場人物の中で最も「視聴者寄り」のキャラだ。
というかある種の語り部的なキャラでもある。

……で、第6話で惚れた人も多いだろう。
僕もそうだ。
第6話でこの作品が傑作だと確信した。
っていうか、……一言で言って尊い。
第6話を見ろよ!見てない人!早く見ろよ!!!!!!
……ハッ、取り乱した。落ち着いて語ろう。

第6話の「主人公」春斗が「得られないもの」は「才能」だ。
伊月にも、那由多に対しても抱えている明確な「コンプレックス」がこれでもか、と表現されたキャラだ。
「ある種の語り部」である京よりも、「僕ら」が共感してしまうのはどちらかと言うと春斗の方かもしれない。
こんなイケメンじゃないとか言うな
ちなみにこんな春斗の妹が、テンプレートもテンプレートな100点満点の「妹キャラ」だってのも、オタク視聴者としてニヤリとしてしまうポイントだ。
ことごとく、誰かが手に入れたくて仕方ないものは、誰かが何の苦労もなく手に入れてて、誰かが微塵もその価値を理解していないものだったりする。

話を春斗のコンプレックスに戻すと……

それこそ大学辺りまで生きていると、大体の人は分かる。
どうやっても敵わない人間がいる。
ホンモノの天才が、世の中には存在する。

だからこそ、僕らは自分が与えられた「武器」で戦うしか無い。
春斗は明確にその「武器」で戦うことを選んだ存在だ。
だからこそ、自分自身を殺して「売れる要素」を作品に詰め込むことができる。

……このあたり、露骨に作者が自分を作品に込めてる気がするんだけど、そこに踏み込むと泥沼が始まるのでやめとこう。
……でもちょっとだけ踏み込みたいから踏み込むと……

『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』『エロマンガ先生』作者の伏見つかさは、露骨な天才だと思ってる。前作の延長線上に『エロマンガ先生』は存在してて、かつ洗練されてる。そのまま前に進んでる。

で、『僕は友達が少ない』『妹さえいればいい。』の平坂読は……もうものすっごい秀才タイプだ。それも物凄く不器用な……。うん、笑っちゃうほど不器用に見える。
だからこそ、悪あがきが凄い。
『僕は友達が少ない』の延長線上に『妹さえいればいい』は存在しない。
というより寧ろ……やっとこさ、「居場所を見つけたんじゃないか」と思えるようなシナリオだ。噛み合ってる。
だって明らかに不器用なんだもん。作者も、作品も。でも秀才だから、きっちり作品の構造は整えてきてる。

話がさらにさらにズレるんだけど、ジャンプ+で連載してる『青のフラッグ』っていう物凄く繊細な青春恋愛漫画があるんだけど……

青のフラッグ 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

青のフラッグ 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

 


その作者は少し前にジャンプで『バディストライク』っていう、一回も試合せずに打ち切られて終わっていった野球漫画描いてたんだけどさ。

バディストライク (ジャンプコミックス)

バディストライク (ジャンプコミックス)

 

ちょっとレビュー見て。
これ、バディストライク。

f:id:Mistclast:20171119134342p:plain



ジャンプ本誌で読んでた時、「アンタが描きたいのどう考えてもコレじゃねえだろ!!!!」と凄い勿体なさを覚えながら読んでた。
実際最終話とかホント酷くて、「ヤケクソ」って言葉が似合うクソ漫画として終わっていった。
だって明らかに人間ドラマが描きたい感じが凄くて、そのくせに最終話は「数少ない真剣に読んでた読者」さえ馬鹿にするような終わり方だったんすよ。詳しくはググって頂きたいんですけど、もうぐちゃぐちゃ。

で、こっちが『青のフラッグ』。

f:id:Mistclast:20171119134658p:plain

僕、最初この作品読んだ時泣いちゃってさ。
「KAITOさん(作者)……やっとアンタ、自分の居場所見つけたんだな……」って。ホント何様だよ僕。
でもさ、僕、なんていうか「噛み合ってる」作品に触れた時、自然に涙が出ちゃうんだよ。

で、やっとこさ話が戻ってくる。
最初から全力で「噛み合ってる」伏見つかさと『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』『エロマンガ先生』って言う作品と比べて。
平坂読って言う作者と『妹さえいればいい。』っていう作品は、やっとこさ全力で「噛み合った」作品なんだって感じがするんです。

……作者の話にはちょっとだけ踏み込むだけだったつもりなのに、思いっきり踏み込んでしまった。
6話の話に戻ろう。

多分、6話で泣いちゃったのは僕だけじゃないはずなんだけど、とにかく情報量が多い。
復習を兼ねると、春斗の作品がアニメ化され、その第一話の上映会が第6話のメイン・イベントだ。……文章にするとクッソ地味!

で、結局そのアニメは悪い意味での「クソアニメ」なわけなんだけど、その演出がなかなか秀逸だ。SNSの流れを研究しきっている。というかBGMも凄い。希望から絶望への落とし方が絶妙。
このあたり、監督ガチで有能なんだなと。
監督は『バカとテストと召喚獣』や『のうりん』等、隠れた名作メーカーの大沼心だ。
必死の男を描かせたら日本一の監督だと思ってる。

このカット、ホント良いよね。これOP持ってくるあたりのセンスほんと大好き。

f:id:Mistclast:20171119135828p:plain


で。
アニメの失敗に触れて、やっと春斗が本音を吐露するシーン。
「自分はただの職人で良い=才能で業界を牽引する存在でなくて、客が求めるものを作り出すだけの存在で良い」という自分の割り切りを、否定せざるを得なくなるくらいに追い込まれているのがよく分かるシーン。

「好き」だからこそ、自分の作品がダメになってしまうのは本当に苦しい。本当に好きで、「愛してるから」こそ、自分の作品が蔑ろにされてしまうのが許せない。

f:id:Mistclast:20171119140158p:plain


でさ。
この後なんだよね。
ここでガチで泣いてくれるのが、同業でもなんでもない京だっていうのが、本当に良い。

f:id:Mistclast:20171119140459p:plain

「頑張ったけどダメだったら悲しいってことくらい分かります」
ホント良いやつだなって。

主人公にとっても那由多にとっても、……あるいは春斗本人にとっても「メディアミックスの失敗なんてよくあること」って、プロとして一歩置いてるんだけど……
否、プロとして一歩置かなくてはならないんだけど。

その悲しみとかを全部背負って「一般人」の京ちゃんが泣いてくれるシーン、もうホント、……たまらない。

結局、みんなお互いにコンプレックスこじらせてるんだけど、相互に補ってるって話なんだよね。
悪く言えば傷の舐め合いかもしれないんだけど、でも人間関係って最終的にそういったところに落ち着くものだし。
そうして、僕らは前に進んでいく。
でも、僕らは……
僕らは、何者なんだっけ?

オタクだった、オタクである、オタクで在り続けた「僕ら」

何度も言うけれど、この作品は明らかに「僕」、もっと言えば「僕ら」のための作品だと思ってる。
自分に残された「武器」で生きざるを得なかった「僕ら」。
アニメという、何かしらのエンタメに依存して生きざるを得ない「僕ら」。

春斗が京ちゃんによって「一時的にせよ」救われると同じように、僕らもアニメによって一時的に救われてるのだ!……なんて言うと安っぽくて嫌なんだけど……

とにかく、僕らはなんなんだろうな、と。
この作品って、結構大胆に……「置いて行かれたオタク」である僕らの喉元に、ナイフを突きつけてくる作品なんですよ。
それこそ高校、大学の頃に『僕は友達が少ない』のようなこってりとした「ハーレム系ラノベ・ハーレム系アニメ」の世界観に触れてきた人間。

そして、多かれ少なかれ、自分より大きなもの、自分より偉大なもの、圧倒的な才能ーー
そういったものに打ちひしがれて、数少ない自分の武器で生きていかざるを得なくなった僕ら。

「君さえいればいい」。
何度もリフレインされるオープニングのフレーズがここまでぶっ刺さるとは。

そうだ。
「君さえいればいい」。春斗以上に泣いてくれる、京ちゃんがいるように。
(春斗の欲しがっているものはソレではないのだけれど)

でも、ホントはそんなものは滅多にないし、あったとしてもそれは手に入らない方が普通だ。

ねぇ、「これさえあればいい」っていうモノ…
そこには無いからガムシャラに頑張ってるんだね

……ホント、きっつい歌詞だ。

www.youtube.com

この世界中でたった一人だけしかいない
君が望んでる君さえいればいい
『いつか』って未来、追い越して進んでいこう 

 ……あかん、きつくて泣いてしまうこれ。
この記事終わろう、あとは皆さんに任せる。

読者の方さえいればいい。

お読み頂き、ありがとうございました。
ではまた次の記事でお会いしましょう。